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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)66号 決定

抗告人 森下作太郎

相手方 萩森ヨネ子

主文

原決定中、抗告人の申立を容認しなかつた部分を取消す。

抗告人が、金五千円の保証を立つることを条件として、抗告人が相手方に対して有する金一万四千二百四十八円也の損害賠償債権の執行を保全するため、右債権額に満つるまで、相手方所有の動産を仮に差押える。相手方が、前記の債権額を供託するときは、この決定の執行を停止又はこの執行処分の取消を求めることができる。

理由

一、本件抗告の要旨は、原決定は、抗告人債権者が相手方(債務者)に対して有するとして申請した、家屋不法占拠に因る損害賠償債権金四万一千七百四円の内金一万四千二百四十八円については、抗告人は申請外西田兼三郎こと西村兼三郎に対して、既に債務名義を有し、相手方は同人の家族として占有を共にするものに過ぎず、同人と別個に又は連帯して、損害賠償債務を負うべきものと認め難く、抗告人提出の疏明を以てするも相手方の右債務を認めることができないので、この部分についての申請は失当と認める、としているが、相手方は右西村と明らかに合意の上、共同の意思を以て、不法占拠を敢て為したもので、相手方は右西村と単に数年間同棲したに過ぎず、法律上の配偶者でなく、しかも相手方は、本件家屋入居後、ピンク美容室と称して、技術者を雇傭し、自己名義を以て、美容業を経営した事実があり、右西村と共に抗告人に対し、家屋不法占拠に因る損害賠償の連帯責任があるもので原決定において抗告人の申請を容認しなかつた部分は失当であるから、これを取消し、抗告人の右仮差押申請を許可する旨の裁判を求める、とゆうのである。

二、右に対する当裁判所の判断は、つぎのとおりである。

疏第一号証の一、二、第二号証の一、第八号証の一、二によれば相手方は、訴外西村こと西田兼三郎と、大阪市東住吉区小阪町二丁目九番地木造瓦葺二階建東向居宅三戸建一棟のうち中央の一戸に、同訴外人を世帯主として、昭和二五年三月二五日以降昭和二八年一二月一二日まで約三年以上、内縁関係のもとに同棲していたことが疏明される。

そして占有権とは、物に対し事実上支配しうる関係を、法が保護したものであるが、家族や雇人等は、その居住家屋又は事務所において、家庭の主宰者や主人のため、その意思にしたがつて、目的物に対する支配を行うものにすぎないから、そこでは家庭の主宰者や主人の直接の占有権が存するにすぎず、家族もしくは雇人に対しては通常独立の占有権は認められないこと、原決定のゆうとおりである。

しかしながら、右家族の居住家屋に対する事実上の支配の関係が右のとおりである以上、相手方が、その内縁の夫の占有権を行使するため、これと共同して損害の原因たる行為をしたものとするになんら妨げるものではない。民法第七一九条第二項では、教唆者及び幇助者を共同行為者と看做しているが、相手方の右の関係は、共同行為を現実になすものであるから、故意もしくは過失の意思責任があるかぎり、同条第一項にあたると考うべきである。したがつて、原決定が、相手方は、家族として本件家屋を占有するものにすぎないことのみを理由として、ただちに、相手方に対する、この間の家屋不法占有にもとづく損害金債権についての本件申請を、容認しなかつたのは失当である。

そして抗告人の全疏明によつても、その余の抗告人主張の事実を認めるに、必ずしも十分とはいえないけれども、裁判所の命ずる保証を立つるにおいては、これを許容しうべきものと考える。

よつて、民事訴訟法第四一四条第三八六条第七四一条により主文のように決定する。

(裁判長判事 沢栄三 判事 井関照夫 判事 坂口公男)

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